私は今回陸上生物モニタリング部門の観測隊員として参加しました。今回は前回からの続き、昭和Aヘリからヘリコプターに乗り込んで、さあ、野外へ。大苦戦の湖沼調査の様子をお届けします。
今回、生物班のミッションの一つに、湖沼の中に設置してある測器 (係留系) を回収するというのがあります。
湖沼の中に設置してある測器 (係留系) の回収では、ゴムボートを持って行きます。現地でゴムボートを膨らませて湖沼に浮かべ、GPSのポイントを頼りにその場所に向かいます。GPSで示されたポイントについたら、かぎ爪で引っ掛けて測器を回収します。
測器は一番下におもりがついており、湖面から約1.5 m 水中に浮きがついています。浮きとおもりの間には各種測器がとりつけられています。浮きを湖面上に出していないのは、凍結した湖面の氷が湖岸側から溶け始めた時に、氷と共に取り残された浮きが風などによって引っ張られて、同じ場所にとどまってくれないためです。湖面に浮きがあれば回収時も探しやすいのですが、実際は思うようにはいきません。もうひとつのネックは風。ゴムボートは風にはめっぽう弱いという特徴があります。この係留系の回収、実は出発前に国内で訓練を行いました。訓練した日は風が少しあり、私はもともと運動が苦手なこともあり、思うようにボートを進めることに大苦戦しました。とりあえず、訓練は受けた。でも操船は力のある男性サポートメンバーに任せようと決めて南極にやってきました。
1月21日、天気は快晴、私達4名は係留系設置湖沼のひとつ、ラングホブデ・ぬるめ池湖畔で立ち尽くしていました。朝から風が強かったけど、池に白波も立っている・・・。
「ど、どうします?」
「これ、ボートで沖まででられなさそうですね。流されるしかなさそう。」
「うーん。お天気お兄さん(気象隊員)に聞いたら、昼頃から風が弱まるって言ってたけど・・・。」
4人で岩陰に隠れて、風をしのぎつつ早めのお弁当を食べることにした。「寒すぎる~!!」気温としては氷点下に近かったと思いますが、まるで、早春、ちょっと時期の見極めを誤って極寒のなかお花見をしているような・・・そんな感覚にとらわれました。
ぬるめ池湖畔にて岩陰に隠れて、風と寒さに耐え途方に暮れる面々。青いヤッケが筆者。南極は紫外線が強烈なため、野外に出るときは紫外線対策に手を抜けない。サングラスと顔を覆うアイテムを常に身にまとい、誰かワカランという声が続出するもいつもこのいでたちだった。
野外でのお弁当、私達の班では、おにぎりを握り、その他シャケ、ソーセージ、今川焼などに火を通して持って行っていました。その他、パンやカップラーメン、お湯をいれて15分でごはんになる乾燥米飯なども用意します。
本日の作業時間は、ヘリから降りて4.5時間。ヘリは前倒しでやってくることも多く、お迎えの時間も気になります。風はあまり弱くならないけれど、ボートを組み立てて準備することにしました。ゴムボートはすべてのパーツを合わせて約25 kg、意外と重く、組み立てると風にもあおられ運びにくい。まずはヘリポートに近いという理由で風下からボートを出して漕ぎ始めました。力のある男性隊員が漕いでも岸から20 m ほどのところまでしか沖にでられない。奮闘していましたが、力尽きて流されてきました。
「どうやっても、無理!」
白波立つぬるめ池。ゴムボートを出して沖に出ようとするも、流されることしかできなかった。
では、風上から流される戦略で行こう、ボートを持って湖を半周し、風上側へ向かいます。湖の波を読みながら戦略をたて、いざ開始。あるところまではボートを漕いで頑張り、その後はGPSの位置とにらめっこしながら係留系が設置してある地点を流されつつ通りすぎる。流されては、湖畔を回ってボートを運び・・・と言う作業を6回ほど繰り返す。数回やったところで、GPSを見る隊員と操船する隊員の息がぴったりと合うようになり、係留系のすぐそばを通ることができるようになりました。でも見つかりません。
GPSで表示される行動の軌跡をみると、湖沼上ではほぼまっすぐ流されている線が数本、そして、岸を歩く軌跡の部分だけが(何回も歩いたので)濃くなるという結果になってしまいました。
「ヘリのお迎え時間が近いよ~!」
あきらめて撤収です。
30分ほど前倒しでお迎えにやってきたヘリ。ヘリポートを歩いていた、1匹のアデリーペンギンを飛行士の方が確認したのでしょう。ペンギンが通り過ぎるまでヘリは上空でホバリング。焦ったペンギン、砂利道を走ります。途中、筆者に気づいてよそ見をしたか、あろうことか、ペンギンが躓いてコケる現場を目撃しました。
ちょっとほほえましい現場も目撃しつつ、ちょっとモヤモヤしながら、ぬるめ池を後にしました。
(大学SNS寄稿文を加筆修正)
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