雪鳥沢でのコドラート調査(北日本新聞社(岩手日報)記事参照)後、ブリが襲来、小屋にすし詰め状態になった筆者らは調査をあきらめて、まさに「晴耕雨読」状態になります。
朝8時ごろ起床、発電機のスイッチを入れ、小屋に電気がともります。外は相変わらず雪混じりの風が吹き荒れます。
朝食を食べて一段落。パソコン作業をする人、会話を楽しむ人、小屋にあったカードゲームに興じる人。
ふと見ると時計は11:30分。
「お昼ご飯にしますか?」
「え。もう!? さっき朝ごはんを大量に食べたばかりでお腹すきませんよ・・・。」
「そうですよね。」
「あとで、おやつぐらいにしますかね。」
「じゃあ、人生ゲームしますか。1990年代バージョンですが。」
小屋にはボロボロになった古い人生ゲームがあり、皆でやってみます。30歳台前半から50歳台代までの隊員が集まる雪鳥沢小屋。1990年代バージョンの人生ゲームをすると、こんな会話が繰り広げられます。
「えぇ?何ですか、これ?」
「それは、当時はやったんだよ。こんな感じの踊り。」
「え~。何それ、変なの。」
「あれ、中澤さんは知ってるでしょ。」
「失礼ねぇ、しりませんよ。そこのお二人と私とではちょっと世代が違いますよ・・・絶対。」
そして、少し小腹がすいたら、何かを作って食べる。こんな日が2日ほど続きました。
前述の新聞記事は、カオスの様相を呈するこの雪鳥沢小屋内にとどまっていた同行記者の手で書き上げられたものです。
3日目の朝、小屋の外は静かです。
「ついに晴れた!」
「でも、撤収日ですよ。今日。」
予定していた仕事がすべて終わらず、後ろ髪を引かれるようにお迎えのヘリに乗り込みました。
ブリが過ぎ去って静かになった小屋の前に荷物をまとめてヘリのお迎えを待つ。もう少し調査したかったなぁ。
それにしても、1つが10kg以上はある大量の物資を、ヘリのローターがまわる轟音のなか、一つずつヘリへ運び込んで移動するのはかなり大変です。小屋の前に荷物をまとめて、ヘリのお迎えを待ちます。
南極に限りませんが、フィールド調査は服装も非常用装備も含めて準備を万端に。これまでのフィールド調査から、自然の怖さを十分理解して挑むべき (永淵と中澤、日本水環境学会誌 44 (9) 293-298, 2021.) ということをいつも肝に銘じてきました。野外調査に出るような研究をするようになって、もともと登山などをしなかったのに、ずいぶんと、山用品を購入してきました。
観測隊に参加し、大量の野外装備品や貸与されたアウターなどの服は長年の観測隊の経験から必要なものがそろえられているのだろうとふと考えます。何もなければ使わずじまい、という物資もあります。
野外で体調が悪くなっても、天気が悪くなっても、どうにかして持ちこたえて、自力で安全なところまで帰り着くしかなく、無理しすぎないことも重要です(そうでないときは大きな事故を意味する)。
一足お先に雪鳥沢小屋を発つ。ヘリコプターからのかなり強烈な風の吹きおろし(ダウンウォッシュ)に耐える観測隊仲間を、撮った1枚。物資の上に人(観測隊員)が覆いかぶさるようにべたっとはりついていないと軽いものは飛ばされる。そして、ヘリコプターが去った後、服の間をぬけ、ありとあらゆるところに砂が入るのが、野外ヘリコプターオペレーション(ヘリオペ)の日常。ちょっとしたヘリコプターの向きやパイロットの匙加減によって激しさが変わるというのが隊員間のもっぱらのウワサである。
雪鳥沢小屋前のヘリポートは砂地でダウンウォッシュがものすごい。
(大学SNSへの寄稿用に書き下ろした文章を加筆修正)
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