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夏季・南極と南半球の大気中水銀濃度



装置とかアルゴンガスとか心配しながら昭和基地で約1か月、大気中水銀を測定し、論文を書いた。


装置は昭和基地の基本観測棟に据え置きだ。私が露岩域にでて、昭和基地に不在の日も頑張って黙々と観測してもらった。


露岩域に出てしまうと、基本的には定時交信が昭和基地への連絡手段になる。

無線は電話ではない。


最近は衛星でのインターネットアクセス、スターリンクだと「結構ネットサクサクで使えるよ」と聞く。南極のなんもない露岩域でネットかぁ・・・である。


でも、今年のお正月、北陸を襲った地震のニュースをみて、南極でお仕事中のはずの隊員から1日も経たずに「大丈夫!?」とメッセージをもらった。


思わず聞いた。

「今どこにいるんですか? 基地から離れた氷の上で仕事してるんじゃないんですか?」



すくなくとも、私が露岩域に赴いたときはもっぱら「無線」だった。

そのため基地にいる隊員に

「ちょっとアルゴンガスどれくらい残ってるか、見てきてくれん?」

「今、観測値はどれくらい?」

というようなやり取りは当然、できない。


4日から1週間程度、露岩域出発前には装置とアルゴンガスを無駄になでなでして、


「観測を頑張ってよ、アルゴンガス漏れないでね。私、ちょっと数日、行ってくるから。」

と声をかけていた。



1月、つまり夏期間は毎年晴天が続くことが多いそうだが、私が参加した 2022年1月は天気に恵まれない日もあり、「視程 1 km 未満、風速 15 m/s 以上の状態が12時間以上継続する」と観測隊が定義している、B級ブリザード相当の荒天になり外出禁止令が出たりした。


私は調査のため露岩域へ調査に行く計画が組まれており、基地と露岩域を行ったり来たりしていたのだが、悪天候のため、そしてヘリの不調によってもヘリコプターが飛ばないこともあり、オペレーションが常に流動的になっていた。


「考えてもしょうがない。予定通りの調査地に全部行けないかもしれないけれど、やるだけやろう。」



臨機応変、その場で対応するというのはまさにこのことをいうのだろう。その場で出くわした事象を受け入れ対応するしかなかった。


しかし、この天気が変化することは、一つの場所で大気を観測するような仕事をしているときは、ラッキーなのである。

環境の変動が大気の中の物質濃度の変動を引き起こすことがあるからだ。


結果がこれである。




 
 

大気中の水銀濃度 (上記、GEMと表現) の上昇のピークが2つ、そして日変動がよく見える期間があった。


2つ目の濃度上昇のピーク時、私はラングホブデのユキドリ小屋に、まあまあたくさんの人数でぎゅうぎゅう詰めに閉じ込められていた。寝る・食べる・話す・パソコン作業する・トイレに行く、それぐらいしかすることがない。


こういう時のためなのか、小屋にあった、15年ほど前に発売になったと思われる人生ゲームとUNOを、お腹いっぱいになるまで楽しんだ。


基地でも皆、建物内に閉じ込められていたそうだ。


それから、とくに期間の後半、大きなピークはみられないものの、昼間に濃度が高くなり、夜に濃度が下がるという濃度変動がみられた。この時期は、ずっと晴れが続いていた。毎日が晴れ。空が青かった。



 

1月後半の基地の様子。空が秋っぽい。基地のヘリポートからヘリが離陸しようとしていた。

 


白夜が明け、夜も出現した。「薄明るいけれど、なんとなく日が暮れた感じがしない?」

秋になった感じもした。


1か月間、昭和基地で観測した大気中水銀の平均は 1.01± 0.21 (0.36-1.83) ng/m3だった。


研究室の常套句その1は「大気中の水銀は 95 % が・・・」であることはすでにブログに書いた。


常套句のその2は、「大気中水銀の北半球のバックグラウンド濃度は、 1.5~1.7 ng/m3である。」なのだが、今回、南極で観測した値はそれよりもずっと低い。


バックグラウンド濃度とは、周囲に汚染源がない場所での濃度のことを言う。世界的なモニタリングネットワークがあり、日本にも観測サイトがある。


一般的に南半球の大気中水銀のバックグラウンド濃度は北半球のそれよりも低い (Sprovieri et al., 2016)


昭和基地ではないが南極で観測した大気中水銀の濃度を文献で確認する。

ぱっと見た感じ、「文献値ぐらい」だった。

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