南極でどうしてもしてみたかったことのひとつは『大気中水銀の連続観測』である。
そして、論文がついに publish!
南極は、人為的な汚染源も (ほぼ) ないし、最も原始的な環境を保っている場所、と考えられている。
カッコ「ほぼ」カッコ閉じ、と書いたのは、人為汚染源として基地での活動や旅行者、南極の海を航行する船舶による汚染があるからである。これについてはまた今度。
最も原始的な環境を保っている場所、そこでいろいろなことを観測することは環境や地球を理解するのに重要で、南極で連続的に大気中水銀を測定した例はあまりない。
私はずっと環境中の水銀に関する研究をやっているのだが、南極はもう2度と行けないだろうということ、昭和基地での観測例もないので、どんなふうに大気中水銀の濃度が変化するかを知りたいと考えていた。
千載一遇のチャンス到来、である。
「絶対にやりたい!!」
さてどうするか。
日本インスツルメンツ株式会社とタッグを組もう。
コロナ禍、うだるような暑さのなか、実家に戻った。
水銀を測定する装置を作っている会社(日本インスツルメンツ株式会社、大阪府高槻市)にお願いして不具合の対応方法や、普通ならエンジニアの方が交換する部品の説明を受けるなどトレーニングを受けた。
二日にわたり、実家から通った。久々の阪急電車通勤である。
「中澤さん、南極行くんですか!?」
「そうなんよ。大学のころ、わちゃわちゃしていたあの時からは考えられないよねぇ。」
就職した後輩と、久々を喜びあいつつレクチャーを受ける。
「え。一回聞いただけじゃあ、無理かも・・・」
「あ、でも、Lineとメールは遅いながらできるらしいんで!!・・・しらんけど、たぶん。」
と話ながら、必死にメモと写メを撮りまくる。
トレーニングはこの二日だけ。この後、調整され、装置は日本国内で開梱されることなく、極地研の集積所経由、しらせに搭載されてしまう。
次にご対面するのは、12月下旬。復習もかなわない。
「あ~、う~ん・・・。設置する4か月後には頭からなくなってそうだなぁ・・・。」
そういう時は文明の利器 (Line やメール) に頼ろうと腹をくくる。なんとかなるだろう。いや、なんとかしよう。
大気中水銀を測定するには、測器の他に アルゴンガス (ボンベを持っていく)が必要になる。
このアルゴンガスが、ちゃんと南極に到着したのか、到着して再会するまで、それはそれは大変気になる事項その1、だったのだが、それはまた別の記事で。
そして、行く前には設置できる場所についての情報があまりなく、これまた心配のタネになっていた。
「大気」を観測するので、チューブを出して大気を引き込むところ (インレット) が必要なのだが、窓のどこかにチューブを出せる穴があるのか?を心配していた。
設置予定場所は新しい建物とかで、PI (研究の責任者) の先生も
「どうかな~、あるかな?」
とのたまった。
「え。知らんのですか?! じゃあ、設計図、見せてください。」
「完成してから行ってないからね。 ああ、これこれ、設計図。」
「う~・・・。この設計図じゃなにがなんだかわからないよ(泣)。」
わからないものは仕方ない。
設置できたとして、次の設問は
Q:外気引き込み口から伸ばしたチューブが室内の測器に届く長さとは何メートルか!?
である。
「う~ん・・・。10 m ? 短いよなあ・・・。 乗鞍で観測したときは、窓と測器の場所が近かったけどなあ・・・。」
結局、えいや、と 30 m の長さのチューブを購入して持っていき、長々と部屋の中を這わせて設置。
「た、足りた!」
ケーブルラックにチューブを這わせるお手伝いをしてもらった。
私はケーブルラックに線を這わせるということをしたことがなく、手際よく結束バンドを使いながら作業を手伝ってもらいその作業さばきに見惚れた。
観測結果を確認中。
うーん、ほぼ「食べ放題」に近い観測隊参加中のため、観測隊参加中に撮った写真は、すべて太め。なかなかもとに戻らないんだよね・・・これが。
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