水銀測定装置をメンテナンスする
- Lab member
- 1月5日
- 読了時間: 4分
分析データは研究室の命である。
ゆえに、日々のデーチェックとメンテナンスは欠かせない。
日頃、学生には
「実験室で、漫然と仕事していい加減なことをしたら、真顔で問い詰めること間違いなしだから」
と宣言している。
研究室にある、加熱気化の水銀測定装置 MA-2000 (日本インスツルメンツ社) の場合、不調になってきたらまず流路の汚れを疑い、分解掃除をしなければならない。
今年の4年生はラッキーにも
「わたくし、そろそろ汚れてきたら掃除してほしいです。」
という、機器からのメッセージを発せられることなくこの年末までやり過ごしてきた。
ところが、である。
年の瀬迫った、クリスマスの直前、 3年生に操作方法を教えつつ自分で分析もする、というタイミングで機器から「そろそろ掃除してほしいのですが・・・」というサインが出されたのだった。
つまり、サンプルを入れない状態で測定した値 (ブランク値) が思うように下がらなくなったのだ。
「今、1階で装置を動かしていますが、ブランクが下がりません。分解掃除の方法を、お時間あるとき教えてください。」
6階の居室で仕事をしていたら、メールが来た。
「お時間?・・・そういわれると年内は忙しすぎて時間がなさそうよ。急ぐ場合は、学生実験の準備とか私の仕事を一部肩代わりして win-win の関係じゃないと時間がさけないよ。卒論の添削もあるしなぁ・・・。」
そんな話をし、お互いが助け合うという約束を取り付けて、掃除を開始。
「ほんなら、まずマニュアルを見て・・・。」
「このイラスト通りやるんですか?・・・全くわかりません。」
「そう、そのページの通りやったらいいんだよ。・・・でもわからないんだよね、それ。省略されすぎやろうという。まあ、一つずつ外していったらいいだけなのよ。スマホで撮りながらやって覚えるのみ。」
「ついでに原理を説明するわ。必要ならメモを取って。」
「分解するとき、スマホでいちいち写真も撮って。漫然と撮ってたら、あとで「あ。肝心なところがうつってない」ってなるからね。」

分解掃除したMA-2000。流路のパーツをすべて洗い、さて取り付けだ。
別の研究課題をしている4年生 (右) とともに「さっきのメモとスマホの写真で取り付けできるん?」と、後で観察した。
説明を始めた。
「年輪とか葉っぱとかのサンプルをまず、ここで加熱して中に含まれる水銀を気化させる。その後はこういうふうに流れ、最終的に水銀をここの水銀捕集管でトラップするの。
この水銀捕集管、ガラスに見えるけれどガラスではなくて石英なんだよね。中には珪藻土に金を特殊な方法で吹き付けたものが入っている。
これ、変哲もないガラス管のようにしか見えないけれど、石英で高いの。だいたい1本1万円だから!!」
だんだん力が入って力説した。
「ちなみに、強度は・・・?」
「ガラスと同じぐらい。だから落としたらパリンよ。野外で大気中水銀を測ろうと持ち出して、山の上とかで時々落として割って泣いてきたのよ、所属学生はたいていね・・・。」
と説明しながら、メモしているノートを、チラ見したら
「金をくっつけている。 1万円!」
とだけ書かれていた。
「なんなん、そのメモ。どこの説明をしてるのかも全然わからへんやん。」
「いやいや、今日はこれが一番重要ですよ。」
1本、1万円。
ならば、と被せた。
「あ、今から外すガラス器具、ヘンな形のものも、だいたい1パーツ1万円だから!それで、もっと恐ろしいことに、この装置はずいぶん前に後継機種が出ていて、この子 (MA-2000) はもうメンテナンス対象外になってるの。
だから、1本1万円でも入手できるならまだいいけれど、この子の場合、パーツの在庫が無くなったらもう装置を動かせないから。予備パーツはいくつかはあるけれど。すべての工程、大切に優しくしてあげて。」
「でもこうやってパーツを全部分解してやらないとちゃんと良い分析値が出ないのよ。
ちなみに、いい加減やってたら、だいたいバレるからね。」
「え。怖!、分解掃除はムリ。」
それだけが学生の頭の中にインプットされたかもしれない。
肝心の原理と分解掃除の方法は分かったのかいな・・・。
その場で出来る限りメモして理解して頭に残してくれないと、メモしていないがために今度おんなじこと聞いたら、
「2回目は高額の説明代、請求するよ。高いよ!」
である。
年末、実家に帰ったら、子供のころよく遊んだ子供銀行券が出てきた。
子供銀行券をゼミ内通貨にして、2回目からは課金制にしようかと考えたお正月だった。
Commenti