私は今回陸上生物モニタリング部門の観測隊員として参加しました。隊員としてのミッションは、昭和基地や露岩域で長年続けてきた生物に関するモニタリング観測を行うことです。昭和基地と露岩域で調査を行いましたが、今回から数回にわけて野外での調査の様子をお届けしたいと思います。さあ、野外に出かけましょう。
観測隊で、露岩域と呼んでいる調査地へはしらせに搭載されているヘリコプター(CH101という機種)で赴きます。
しらせで南極へ向かう途中、人員や日程の調整を繰り返した野外調査計画でしたが、ヘリの調整や天候などに左右されて、オペレーションが始まって数日が経過したお正月を迎えるころには、すでに計画倒れ気味に。
複数の野外調査チームが居るため、日程調整やサポートメンバーも含めた人員の調整など、綿密に考えていく必要があります。ですが、何かの拍子に1日ズレただけで、サポートメンバーの都合が悪くなったり、ヘリや天候の不調によって、所定の日に昭和基地に帰ってこられなくなったりすることもあります。あらかじめ計画はするものの、変更があってもどうにかなるよ、という心構えで臨むのが良いようです。
国内での野外調査でも天気などによっては変更を余儀なくされますが、それよりももっと流動的だと感じました。
さて、観測隊の歴史から、露岩域でのヘリの着陸地点には多くの情報の蓄積があり、各露岩のヘリ着陸地点には、なんと、世界の空港と同じようなレターコードが付与されています。
昭和基地Aヘリポートは「昭和A」しらせは「WQ」、露岩域の例では、スカーレン大池カブース「SKL」、スカルブスネスきざはし浜「SKR」、ラングホブデ・ユキドリ沢小屋「LNG」と言った具合です。毎日、しらせ飛行科(海上自衛隊) と隊長とで協議してフライトプランが決められます。たとえば、「WQ→昭和A→LNG→SKR→昭和A→WQ」などです。
「おぉ!! 国内エアラインパイロットのフライトスケジュールのように過密!」
隊員は人員と物資がどこで乗り込んでどこで降りるかが書かれた詳細なフライトプランがメールや掲示され、隊員はそれに従ってヘリに乗るための準備をします。
ヘリへの乗り込みを待つ隊員たち。
ここはラングホブデ四ツ池谷ヘリポート。スリーレーターコードは LYI
ヘリのローターは回ったままのため、轟音のなか隊員は荷物を運び、最後に自分達も搭乗する。轟音のなかで伝達事項があると大変。ちょっとイライラしながらお互い叫んで意思疎通を図る。
野外観測に必要な物資が置かれている倉庫から、荷物をトラックで運び出して昭和Aヘリわきに並べます。軽いものは風に飛ばないように大きな石を載せて養生します。ヘリの到着時間が前倒しになることもしばしばのため、かなり時間に余裕を持って準備します。
野外への荷物は、調査のための用具の他、簡易トイレ(ペール缶トイレ)、食糧(野外糧食)、テント、シェラフ、非常装備品、調理器具・・・そして個人の私物(ダッフルバッグ等に詰める)と大量です。
静かな南極、しらせ (WQ)を発艦したヘリの音が遠くから聞こえます。遠くにヘリを確認、昭和Aヘリに着陸します。着陸時、隊員は荷物に覆いかぶさって、ヘリからのダウンウォッシュに備えます。
ダウンウォッシュはヘリが着陸する際に吹き降ろされる風で、軽い荷物は飛ばされてしまいます。また、地面が砂地や氷だと、それらをもろとも巻き上げて容赦なく打ち付けます。激しいところだと、大粒のあられが突然に降ってくるような、しかもいろいろな方向からたたきつけられるという状態になります。ヘリが下りるとダウンウォッシュの風は収まり、私たちは服やあらゆるところに侵入した砂や小石を払いのけながら起き上がります。
ローターがまわる轟音のなか、さあ、集積した物資を皆で一つずつ運び込んで、さあ、野外に出発しましょう。
昭和Aヘリに集積された物資。この日は私の生物班以外に、地震班・測地班と同じ便で野外へ、その分物資も大量となった。なかにはものすごく高価な機材もある。
日本国内の宅急便なら、2つより1つで発送するほうが安い。そのため、宅急便配達員の足腰のことを無視してできるだけ1つにまとめようと頑張ってしまう(ごめんなさい) 。しかし、ここで学んだのは、自分達でひとつづつヘリに運び込まなければならないということ。
まあまあ運べるのは、1つあたり10kg 程度ということを知った日々だった。
(大学SNS寄稿文より加筆修正)
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