信頼のおけるものをー海外旅行などでは水銀入り美白関連化粧品に要注意

最近は男子学生もとてもきれいにお化粧しているのを見かける。
一方、私は小さいころから顔に何かを塗る(=お化粧する)のが苦手だ。
運動が得意でなかった私に、母はバレエならきれいなお衣装を着れるし、続くのではないかと思ったようで、幼稚園生の私をバレエ教室に入れた。
ところがどっこい、もともと体を動かすのは苦手なうえ、発表会のたびにドーランを塗り、バレエのお化粧をされるのが嫌でたまらない。嫌々教室に通っていた。
・・・今になって考えればもう少しマジメにやっていれば、所作の美しさが修得できたかもしれないが、後の祭りである。
大学生になった。
女子大の学園祭らしく、日本の大手化粧品メーカーが「メイクアップ教室」なる催しを実施していた。
コスメの試供品がもらえるとのことで人気だった。
「う~ん・・・。大学生だし。」
と申し込んでみた。
周りはすでにお化粧ばっちり女子大生ばかりだった。
参加した私の感想は、この一言に尽きた。
「あなたたち・・・、メイクアップを習う必要があるん?」
メイクアップ教室が始まり、戸惑うばかりの私を見かねたか、お化粧ばっちり女子が、
「こうやってやったらいいんだよ。ほら、いい感じ。」
と私にお化粧してくれた。
・・・完全にメゲて脱落した。
分析室で環境試料の分析もするようになり、なんとなくコンタミネーション(汚染)が心配、以来、お化粧してもうっす~ら、程度に落ち着いた。
先日、国際水銀学会 (ICMGP 2026) に参加したら、日本の水銀測定装置メーカーが新製品を出していた。
化粧品関連製品の中に含有している(かもしれない)水銀をスクリーニング的に検出するオプションがついた、ポータブルタイプの水銀計だ。

美白化粧品に水銀が含まれているかをスクリーニングできるオプションのついたポータブル水銀計。日本ではあまりお目にかかる機会がない、オプション。EMP COSKen+。
このポータブルタイプの水銀計、かなり使い勝手がいい。私の研究室にも別のオプションを附属させたものを所有している。
私の場合は低濃度 (汚染されていない地域で一般に観測されるような濃度) から高濃度までの大気中水銀を観測できるオプション (EMP-3 Gold+) を取り付けているのだが、この組み合わせは初めて見た。
「これ、初めて見た!説明が聞きたい。」
ブースで店番をしていた、かつての研究室の後輩に駆け寄った。
先日大学に講義に講師に来てくれた後輩だ (様子は→こちらのブログに) 。

愛用装置 (EMP-3 Gold+)。南極、インドネシア、北極圏、とずいぶん一緒に旅してきた。
写真は2024年、インドネシアのホテルにて外気を測定中。扉の下には絶妙に隙間があり、外気を取り込むチューブがつぶれることなく扉の外に固定できた。 この隙間は部屋のなかにヤモリが入り込んでくるに十分である。
美白化粧関連製品と水銀。
せっかくなので自分でも少し調べてみたら、論文もたくさんパブリッシュされているようである。
Fitzastevens et al., 2026 の論文から少し紹介したい。
現在、美白化粧関連製品は世界の市場で3億ドル規模であり、2030年にはさらに成長すると見込まれている。
なぜなのか?
そこには、
植民地独立後の国で教育を受けた女性たちが世界で仕事をしようとする際、
肌の色による就業機会の礫然たる差別が存在していること、
南アジアの女性たちもまた、
美白であることはより専門的な職業人であり、
結婚の機会において美白であることを良しとする社会的風潮の圧力
を受けていること、
そんな社会的背景がある。
ここを読んだ時点で、まず、心がザワザワした。
・・・誰がそんな社会を作っている?
美白化粧関連製品のなかには、その効果を高めるために、水銀、ステロイド、ハイドロキノンなどが含まれることがある。ハイドロキノンは美白成分として広く使用されているが、そのヒト健康リスクが懸念されている (US EPA, 2016)。
著者らはニューヨークで 2009年から2022年にかけて197製品のさまざまな美白化粧品を購入、水銀の含有量を調査した。
その結果、 197製品のうち、29 % (56製品) で水銀が検出され、 18 % (33製品) で、米国食品医薬局 (US FDA,2022) が許容限度とする 1 ppm 以上の水銀が含まれていた。しかし、成分表示欄に、「水銀」と示されていたのは、たった7製品だった。
論文には 27,000 ppm にも達する製品があったと記されていた。
論文によれば、美白化粧関連製品の製造国によっても濃度が異なったが、
同じ製品を別の時期 (ロットが異なるであろう時期) に購入して繰り返して測定した場合でも、その含有量が大きく異なる場合もあったそうだ。
今回、ブースで見せてもらったオプション (EMP-3 CosKen+) は、美白化粧関連製品に含有する水銀をスクリーニングできる。
どちらかというと精度よく測定することよりも、「入っているか」「入っていないか」をスクリーニングするのに最適のようだった。
この装置が日本では需要がないのは、ホッとする情報でもあるのだが、
世界に目を向けると、社会に存在する差別意識とそれに起因した水銀使用が見えた。
上記論文での美白関連化粧品中の水銀濃度は、論文の著者らが、すべてニューヨークで購入した製品から検出された値である。
物流が世界規模になり、気軽に海外旅行にも行ける、現在。
私たちが、何気なく手に取った化粧品にも水銀が混入している可能性は、一定程度あるのではと思わざるを得ない。
私はすでに、大学生のころに化粧品関連からは「ほぼ」離脱してしまったのだが、それでも、石鹸、ハンドクリーム、化粧水、日焼け止めなどは、やはり使っている。
美白化粧関連製品に限らず、日用品を含め、体に取り込む可能性のある商品は信頼のあるものを選びたい。
生きていれば、私たちはさまざまな問題に直面する。
何かの拍子に社会的弱者になる可能性も、
理不尽だと思わざるを得ない場面も、
あるだろう。
だからといって、それをどうにかしたいと対応している間に、
すでに毒性があるとよく知られているものが、知らないうちに体の中に取り込まれるようなことになっていたら・・・?それを使わざるを得ない状況にあるとしたら・・・?
水銀が多く使われる小規模な金製錬活動 も、貧困問題などの社会情勢から、規制が難しいとされる。
(金製錬活動 (Artisanal Small-scale Gold Mining, ASGM) ようすの一端は
「小規模金採掘と水銀汚染」こちらと
「金を換金するところ、それがゴールドショップ」こちら、にも記載)
水銀を通して社会問題を垣間見ること、しばしばなのであるが、こういうことを目の当たりにするたびに
誰もが安心して暮らせる社会になってほしい、と願うばかりである。
<参考文献>
Fitzstevens, M., Alex-Oni, K., Sedlar, S. et al. Mercury in skin lightening and skin care products purchased in New York City, 2009-2022. J Expo Sci Environ Epidemiol (2026). https://doi.org/10.1038/s41370-026-00961-9
(Open access となっており、誰でもダウンロード可能)
US EPA, Hydroquinone, <https://www.epa.gov/sites/default/files/2016-09/documents/hydroquinone.pdf>
accessed 2026/10/13
US FDA, Prohibited & Restricted Ingredients in Cosmetics, <https://www.fda.gov/cosmetics/cosmetics-laws-regulations/prohibited-restricted-ingredients-cosmetics>
accessed 2026/10/13



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